僕はぺーぺーなので、老練な相談員に付き従う。
相談員は元パイロットで、細い身体でかくしゃくと歩き回り、相談の際にもその調子で家族の話を聞いてゆく。元パイロットは、時に話を留め、二三の短い質問と自分の考えを述べる。家族は、みな頷き、納得した空気が流れる。
カウンセリングの終わった後、僕は半ば興奮しながら「どうしたらあなたのようになれるか」と聞く。
もうだれもいない待合室で彼はタバコをくゆらしながら、パイロットであった頃の話をする。
「飛行機を飛ばすときのポイントは、身体で感じることだ。いつもと違うとか、なにか感じる「雰囲気」や「体感」を信じて、それをたくさんある計器と見比べるんだ。
相談だって一緒だろう?何か違うとかどこか変だと思ったら、確かなデータでそれを確かめるんだよ。うまく飛ぼうとしてずっと計器を見ているやつ
は、それに囚われてしまって墜落しかねないんだ。感覚に頼りすぎて何度かオーバーランしてしまったこともあったけれど、結果ごらんの通り生きているしね。
まぁ相談で死んじまうことはないさ。」
半笑いしながら、僕に話しかけ、ふぅと煙を吐き出す。
そして元パイロットはおもむろに立ち上がり、「5時を過ぎたから、相談員は終わり。うちに帰るとするよ」さらっと立ち上がると自分の車へと向かう。
僕は一日の礼を言い、ノートにその言葉を書き留める。
一日の疲れがどっと出て、ぼんやりとした頭で「要約するんだ」とつぶやいてみる。僕は、いまさら運動でも始めてみようかと小さな決意をしてみる。そして、5時を過ぎたのに相談員見習いでしかいられない自分をちょっと恥じる。
コメント