ひさしぶり読書記 10月

 ・クライマーズ・ハイ　横山 秀夫 /著　文藝春秋

クライマーズ・ハイ

事実は「人」が作り出すものだ。この物語を読むなかで一番感じたことは、そんなことだった。
JAL123便の事故を軸にしながら、友人の死や過去の主人公の古傷、新旧や社長派・専務派の社内の派閥争い、個人の名誉や家族との関わりなどか ら、人と人がぶつかりあい、多層多重に絡まりあう。そこに新聞印刷のタイムリミットが追い討ちをかけ、緊迫感はさらにあがってゆく。物語りの構造は、24 （-TWENTY FOUR-）のそれに似ているが、泥臭さが際立つ。
「ヤマを下りる」ことを考えるとき、まだ登り口にもいない自分を少し思う。登れるのだろうか、登ることさえ諦めてしまえばとも少し思う。いままでもそしてこれからも登れない自分と下りられない自分の二人を抱えてゆくのだろう。

・笑わない数学者　森 博嗣 /著　講談社

笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE

構成は精緻でプロットも計算されている。きちんと読めば、きちんと文章の意味がわかるし、その点でわかりやすい。しっかりとした骨組みの中に小話 をちりばめ、骨組みを隠している。図面を一度見てしまうと、物語りがあまりにも見えてしまうので、本当に推理小説として楽しみたい人は、見ないほうが吉な のかもしれない。

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・Φは壊れたね　森 博嗣 /著　講談社

Φは壊れたね

最後まで悩んだが、論理的に解はそれしかない。読了後、ちょっとした不全感が残る。理解は出来るが、納得はしがたい感じ。単純に言うならプロット に必然性を感じない。物語りだからと言ってしまえばそれまでだけれど、殺人の動機から登場人物のあり方まで、それがそうであるからこの物語りには欠かせな いという感じをあまり受けない（犀川教授なんか単なるゲスト出演だし）。
筆者が物語りに負けている気がする。